いなかぐらしのススメ ~東京、大阪で働いてきたITエンジニアが辿り着いた極上生活~

外資系半導体企業でエンジニアとして働いてきた筆者が、東京、大阪での仕事生活を経て、ふと思い立っていなか暮らしを始めたところ、そこには極上の生活がありました。大都会で働きまくっていた時には、こんな生活があるということをこれっぽっちも考えなかったので、同じような境遇の方に少しでも知っていただきたいと思い、いなか暮らしの日常を綴ります。

市町村消滅論への反証!?「田園回帰」をテーマにしたシンポジウムに参加してきました その1

田園回帰1%戦略: 地元に人と仕事を取り戻す (シリーズ田園回帰)

1月15日に、広島市で開催された「田園回帰」がテーマの「都市・農村共生社会創造全国リレーシンポジウムin広島」広島県三原市から6人ほどのグループで参加しました。

 

定員200名でしたが、会場にはパッと見でそれ以上の方が集まっているように感じられました。たまたま隣の席に座られていた方は岡山県から、また、山口県から参加されている方もいらっしゃいましたので、近県からもかなりの人が参加されていたのではないかと想像しました。

シンポジウムは2部構成になっていて、前半が田園回帰1%戦略著者の藤山 浩(ふじやま こう)さんの講演で、後半は、藤山さんに加え各地で活躍されている女性4名が登壇するパネルディスカッションでした。

 

【基調講演】 地元を作り直す時代〜長続きする地域のかたち(ほぼ書き起こし)(前半)

藤山氏は、田園回帰して27年目。川が好きで、唯一のダムの無い一級河川である高津川の川沿いに住んでいる(島根県益田市)。本拠地は、島根県中山間地域研究センター。中国山地のちょうど真ん中あたりに位置し、中国地方5県のセンターとして始まっている。広島、鳥取、山口、岡山からも人が派遣されている。 

いなかのいなかで次世代が増えている

2010年代ぐらいからの傾向。3年前から市町村レベルよりも小ささな小学校区、公民館区レベル(いわゆる地元)の227地区ごとに「里づくりカルテ」を作り、人口、暮らし、産業の様子を調査し、住民の方と共有した上で地域づくりを進めている。

4歳以下の赤ちゃんがどこで増えたのかを色分けすると、1/3を超える地域が増えているという今までにない現象が起こっている。と同時に、増えている場所は、市役所も支所も無いようなところ、山の中に2-30分入ったところ、離島である隠岐で目立つ。

この親世代である30代女性を見ると、4割を超える地域で増えており、「維持」も含めると過半数を超え、むしろ減っている地域の方が少ないと言える。増えているのは「いなかのいなか」で、隠岐は真っ赤(増加ばかり)。過疎という言葉が生まれた「匹見町」も増えている。こういう現象をいなかの人にも気づいて欲しいし、都市の人にも気づいて欲しい。

ただ、家が空いていたり、田んぼが荒れているという厳しい現実ももちろんある。昭和一桁世代が引退して人手不足という状況は、逆に新しい暮らしのレギュラーポジションが空き始めているとも言える。どっちから光を当てるかということ。私たちは、今までの先輩たちが守り育ててきたこの地元をなんとかバトンタッチできるように、今こそここで一緒に暮らそうと呼びかけている。

人口分析&予測プログラム

人口予測がどうなるかだけでなく、具体的にどの世代をあと何組・何人入れたら人口が安定するのかを割り出す。人口安定化というのは、1. 人口が今程度であまり減らない、2. 子供の数が減らない、3. 高齢化も下がるか安定する、という3条件を30年後でも満たすという状態。これで見ると、海士町は既に安定化達成。あるいは、森のようちえんで頑張っている左鐙(島根県津和野町)は達成し始めている。こういった数字を227地区全部で足しあわせ全てを安定させる、すなわち島根県中山間地域を安定させるために、どれぐらい取り戻したら良いか、今までよりUIターンを増やしたら良いかを計算すると、1,251組、2,920人となる。島根県中山間地域は30万人弱なので、ちょうど1%。首都圏の人口が3,500万人なので、3,000人は1万分の1。この理論を全国のいなか40都府県に展開しても10万人強。今、地方から東京への転入超過が10万人。無理して人を集めるのではなく、この人数が定住すれば人口は安定する。

島根県益田市二条地区

益田市の二条地区では、ここ1年ちょっとで9世帯17人のUIターンがあった。最初に地域自治組織を立ち上げて、すごい頑張っている。空き家を掘り起こして、家主さんに交渉して入ってもらうというのをやっている。1年前の診断では、3組7人増やしたら良い。ということは、お釣りがくるぐらい。小さな地域がまとまれば、こういうことができる。二条地区では、ドローンを使って鳥獣対策をしたり、あるいは自分たちの生まれ育ったふるさとがこういう風に美しいんだということを共有・発信しようとしている。

農業の新規就農が盛ん

近年、農業の新規就農が最高ペース。しかも、半農半Xの形態、農業しながら福祉をするとか、お酒を作るとか、いろんなパターンがある。こういったところにも全国から人がやってきて、軌道に乗ってきているので、2月6日には、全国で初めての半農半Xシンポジウムが島根県浜田市で開催される。女性もどんどん入ってきているので、今年度から女性専門の研修コースも出来てきている。

都市で何が起こっているか

広島市郊外の美鈴が丘団地(広島市佐伯区)の事例。1970年代からこういった団地がボコボコとできた。1974年には田園地帯だった美鈴が丘が、14年後には人口1万人ぐらいの団地になった。当時はこれで良かったのかもしれない。広大な土地を一気に整備して安く分譲できたのかもしれない。でも、今何が起きているか。前代未聞の地域一斉高齢化が起きている。美鈴が丘を含む7-80年代にできた団地の人口を分析すると、10年前(2005年)は島根県の高齢化率が30%を超えているのに対し、団地は十数%で3倍ぐらいの差があったのが、去年(2015年)で完全に並び、今度は団地の方が上回る。こういった団地にお邪魔すると、非常に静か。いなかでも店が無くなっているが、団地のど真ん中でも店が無くなっている。

東京はどうか?

今度は東京。島根から東京に行った時にびっくりした。どこまで行っても家がある。ただ、どうしても寿司詰めの満員電車を30年続ける気持ちになれなくて広島にJターンした。非常に長時間の労働と長時間の通勤が多く、その結果、何が犠牲にされているか。一番大切なことはできれば家族と美味しい夕飯を食べることだと思っている。その為に働いている。それが逆転して、何のために働いているのかということになると思う。

30代の若い頃、ニュージーランドで一年遊んでいた。美しい国で、人口密度は日本の1/10。一番すごいと思ったのが、夕方6時に絶対家族が集まって夕食を食べる。これが、ものすごい豊かだと思った。こういった日々の暮らしを見つめなおさなければいけないと思う。民藝運動を始めた柳宗悦(やなぎむねよし)が「暮らしこそ全て」と言っているが、都市も農村も見つめなおすべきではないかと思う。ところが、あれだけ大きい都市圏を東京が作っていると、夜の8時に父親が帰ってこない。61.5%の人が夜8時に帰っていない。(藤山氏は)年の半分は出張しているのでできないが、半分は晩御飯を作っている*1。東京は大きくしすぎた。広島のデータも取りたい。キホンのキがちょっとずれているのではないか。都市と農村のバランスを良い物にしていかないといけないのではないか。

前半のまとめ

半世紀の間に廻り舞台がぐるりと回った。中山間から人々が出て行って都市に集まる。しかし、出て行って作った団地が、中山間地域を高齢化で上回ろうとしている。そうしたところに、東日本大震災がきて人々の価値観を大きく揺らがそうとしている。本当に今の暮らしで良いのだろうか。このままで大丈夫なのだろうか。そういった中で、今、静かに田園回帰のうねりが起こっていると思う。海外に目を移せば、どんどん資源を燃やし尽くして、好きなだけ食料を輸入できる時代は終わろうとしていると思う。我々はもう一度、自分たちの暮らしの舞台である地元を足元からどう作り直すのかを考えなければいけないと思う。今までは規模の経済で、とにかくドカンと作ってドカンと持ってきてドカンと消費すれば上手くいくというのできた。これが成り立ったのは、一周目でしかない。ちょうど大規模に作った団地が一斉高齢化を迎えて、二周目を前に立ちすくんでいる。我々は規模の経済だけでなく、もっときめ細かな暮らしから作り直す時代に来ている。

 

関連リンク:

 

田園回帰の過去・現在・未来: 移住者と創る新しい農山村

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はじまった田園回帰: 現場からの報告 (農文協ブックレット)

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*1:「それではいけないのだけど」という自戒の言葉が続く