いなかぐらしのススメ ~東京、大阪で働いてきたITエンジニアが辿り着いた極上生活~

外資系半導体企業でエンジニアとして働いてきた筆者が、東京、大阪での仕事生活を経て、ふと思い立っていなか暮らしを始めたところ、そこには極上の生活がありました。大都会で働きまくっていた時には、こんな生活があるということをこれっぽっちも考えなかったので、同じような境遇の方に少しでも知っていただきたいと思い、いなか暮らしの日常を綴ります。

市町村消滅論への反証!?「田園回帰」をテーマにしたシンポジウムに参加してきました その2

田園回帰1%戦略: 地元に人と仕事を取り戻す (シリーズ田園回帰)

前回、「都市・農村共生社会創造全国リレーシンポジウムin広島」の基調講演の前半部分をほぼ書き起こしでご紹介しました。

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今回は、基調講演の後半部分を一気にまとめようと思ったのですが、ボリュームがあったので、後半その1としてご紹介します。

【基調講演】 地元を作り直す時代〜長続きする地域のかたち(ほぼ書き起こし)(後半 その1)

島根県邑南町の年齢構成

そういう中で、今、人口の問題が市町村消滅論等も出て注目されているが、今度は人口の具体的な話を数字をもとに申し上げる。藤山氏が中心に開発した。単に「人口がこうなるよ」というだけではなく、「だったら年に何組増やせば良いのか?」という処方箋が分かる。子育て日本一村で全国的に有名な邑南町の現在の年齢構成。高齢化率42.4%で、やっぱり60代が多い。バランス的にはかなりえぐられている*1。50代前半以下は人口がえぐられている。50年ずっと若い世代が出て行ったわけだから。で、こうした市町村は非常に多いのだが、出生率を上げるだけでは人口は安定しない。そもそも、若い人が少なくなっている。過去50年出て行ったのをバランスよく20-60代ぐらいまで取り戻さないと、人口の安定は見えない。これは、ぜひ、今日は市町村から来られているが、肝に銘じていただきたい。どうも今回の地域人口ビジョンで出生率だけをあげてどうにかしようと思っているところが結構ある。藤山氏のところにも相談に来られる。「うちは出生率3.27まで上げないと安定しません」「うちは5.2です」というのは、できない、ダメ。ちゃんと取り戻すことが必要。いわゆるUIターン。

邑南町の人口増減率

 ちなみに、これは年代ごとの5歳若い世代と比べた出入りのグラフ。上に伸びていれば外から入っている。下に伸びていれば外に出て行く、あるいは、亡くなられている。確かに、やっぱり20前後で一度出て行く、邑南町もほとんどの過疎の町村も。だけど、その後、なんと子連れで30前後とその子連れが来ている。これはやっぱり、子育て村日本一の政策が効いているということ。今度は、この変化がこれからも続くという前提で予測を、そのまま掛ける。そうなると、団地みたいな爆発的な高齢化は起きないが、藤山氏の親世代、昭和一桁を中心とする高齢者が亡くなられるので、人口の下げ止まりがまだ見えない。このままで良いというわけではない。どこかで安定させなければいけない。人口は多ければ多いほど良いという考え方はとらないが、安定させなければいけない。止めどなく減少するというのは、地域を維持できない。その安定させるシナリオを持たないといけない。

人口予測に対する処方箋

小中学生の人口予測を同時に見ると、30年で半減ペース。邑南町は、安易な学校の統廃合はせず、むしろ取り返そうとやっているが、もう一頑張り欲しい。では、処方箋はどうか。まず、10代後半の流出を2割にとどめる。今、3割ちょっと出ている。そして出生率を1.87から2.07にちょっと上げる。それと同時に、20代前半、30代前半子連れ、60年代の定年期を、毎年、各年代12組ずつ取り戻す。これは人口の0.7%。これでピシャっと安定する。もう既に邑南町は、人口予測よりも人口が上向いているが、人口の1%未満で安定が見込める。こういう取り組みを続けると、子供の数は増え気味になる。V字回復。

人口全体を守るのは一番厳しく、ハードルが高いが、子供の数だけ安定させようというのなら、0.7%いらない。0.4%か0.5%でも良い。そういった中で、(シミュレーションのパラメータを調整すると、その結果が)いくらでもリアルタイムで変わるので、いろんなパターンの中で地域住民の方が「これならやってみよう」というのを選びとる。こういった真の人口ビジョンを作り始めていただきたい。肝心なのは、市町村全体だけの抽象的な数字ではなく、各公民館区、だいたい平均人口は千人に満たない、今のままで行くとどうなるのか、あと何組ずつ取り戻せば良いのか。こういったことをやって初めて「なるほど」と、「うちでは一組ずつで良い」のか、あるいは「0.3(3年に一組)で良いのか」、中には日和みたいに(人口総数1割未満達成必要組数、高齢化率改善以上達成必要組数、子供減少率1割未満達成必要組数、などなどが)0, 0, 0…、これはもう安定化達成。この5年間すごい頑張って、若い人も入ってきている。こういうところは、選挙速報よろしくバラの花を首のところにつけて欲しい。そういうノリでやらないとだめ。邑南町の公民館に3人が配属されている。一人は必ず正職員。こんな市町村は珍しい。効き目がが出ているのでできること。

市町村単位から先に踏み込み、公民館単位で

邑南町は町単位での総合戦略も作っている。だけど、邑南町はその先を行っている。地区別のこういった人口ビジョンと戦略を作り始めている。ここにきて初めて、地域の人が本気になれる。「なるほど。じゃあ小学校を守るのだったら、今までよりも1組ずつ増やせば良いのか」と。邑南町は、こういった取り組みの中では進んでいる所。集落ごとだったらどれくらいで良いのかというところまで考えている。で、集落ごとで計算すると大体オリンピックペース。四年に一組ぐらい増やせばいける。「なんだ。うちは10集落だから、集落でローテーションすれば四年で一組で良いじゃないか」。ここまで来たら、みんながものすごく本気になれる。ぜひ、そこまで踏み込んでいただきたい。

邑南町は、U・Iターンも頑張って成果を上げているので、2/13(土)に矢上でU・Iターンシンポをやるので、ご興味がある人はお越しください。

ということなので、実は、意外に小さい。毎年ごとであれば、ほんとに一組でいける。そのことをみんなが共有しないといけない。なので、今、日本全国、地域市町村全体のビジョンと総合戦略ができたが、その上を作らないかぎり、仏に魂が入らない。ぜひ、そこをやって欲しい。

いなかの人が、どんな消費をしているのか

 次は、お金の話。今までの経済で、どうしても大きなホームラン狙いが多い。「でっかい企業が来んかなぁ?」「観光客の爆買い来ないかなぁ?」「特産品で一発当たらんかなぁ?」それは否定しないが、打率は高くない。ライバルもあるし、相手もある。もっと足元を見よう。同僚の有田氏を中心に、徹底した家計調査を行った。いなかの人が、何にどれだけ買っているかということが分かる。(カントリーグレインの片岡さんもいらっしゃるので)今は、米よりもパンをいっぱい買っている。この町のデータでは、一世帯三万円買っている。一人あたり一万円ぐらい。300世帯、1000人の村があるとすると、お金無い無いと言いながら一千万円をパンに払っている。それを外から買うから人口が減る。しかもそれは、ありきたりのパン。中であったら、この一千万円が定住に活きてくる。最近ひどいのは外食。(1年間の食費支出の中で)外食がトップ、7.5万円。◯◯バーガーとか、◯◯丼とか、行ってしまう。それから、薪というか、灯油が11万円。1000人の村なら、億単位。これを見て、「ほんと、こうなのか」と、何を変えて欲しいのかというと、むしろ取り返せると思って欲しい。潜在的な需要がある。

学費が大きい

こういた家計調査をすると、子供が小さい時から大学まで、何にお金がいっているかというのがよく分かる。車にもすごい使っているが、やはり一番高いハードルは学費。まだ小中は良い。高校、しかも下宿になると百万円を超える。高校を無くすというのは、地方創生に対して、本当に逆。100人ぐらいの高校が無くなったとすると、こういったデータを元に年間の損失額を算出すると、億を超える。家計の負担が増え、厚生が減り、買い物が減る。ほんとうに考えなければならない。そして、大学は、年間231万円。四年で一千万円を、島根県から県外に出す。毎年プリウスを贈るようなもの。これで帰ってこなかったら泣きたくなる。むしろこれは、国全体としてもオーストラリアみたいに出世払いに切り替えていかなければいけないが、それだけで、就農やUIターンが増えると思う。いなかの家計調査で、学費に対する貯金が無ければ300万円でも暮らせなくはない。ところが貯金をしなければならないので、400万円が必要になる。こういう矛盾がある。こういったことも明らかになっている。

取り戻し大作戦

今度は、取り戻し大作戦。1600人の村で、基本的な食料、燃料。昔は、これらは自給していたはず。藤山氏が生まれた頃もしていた。今、どんな地域でやっても、ほとんど、地元で一割も作っていない。外から買いまくっている。一気に10割というのではなく、せめて半分を自給したら、(自給分の食費・燃料は)この村で、2億円近くなる。一人10万円ぐらい。そこを、外から買っちゃっている。だけど焦らなくて良い。1%ずつで良いから。

人口7万人の島根県益田市の34の産業部門別の移輸出・移輸入の金額一覧。色分けのグラフで見ると、倍返しぐらいで負けている。電気機械はしょうがないとしても、食料品が150億円。一人20万円買っている。ほんとうは、日本一の清流で美味しいものが採れているのに、これだけ買っている。こういう状況のうちはダメ。こういった地産地消を訴えると、「藤山さん、お互いに得意技で特化した方が豊かになるでしょ」という人がすぐいるが、それはせめて、貿易を均衡してからの話。これだと負け続け、お金を払い続け。これを何で補っているかというと、補助金交付税、年金。それをもらっているから成り立っているだけ。都会側にとってもあまり良い話ではない。これをもっとバランスさせなければいけない。買い過ぎ。

志を持って地産地消に取り組むスーパー キヌヤ

じゃあ、ほんとに取り返している人がいるの?ということだが、キヌヤという、志のある地場のスーパーが島根県西部にある。今年の正月の全国農業新聞の一面トップがキヌヤ特集。何でかと言うと、地産地消で勝負している。日頃行っているスーパーで何%地元の農家のものを売っているかを、ぜひ、確かめて欲しい。普通のスーパーは5%もいっていない。大手ほど少ない。キヌヤは6年前でも比較的高かった(8.4%)けど、これは食料品だけではなく、雑貨も衣類も含めた上での割合だが、そこから、正面玄関を入った一等地に地元の野菜とか加工品を地産地消コーナーとして並べて、どんどん売れている。藤山氏もここで買う。全然味が違う。ニンジンとニンジンもどきぐらい違う。藤山氏の娘さん、「今日のカレーは美味しいね」とカレーの味が変わるぐらい美味しい。ここは、地元の農家が15%の手数料を払えば、誰でも売れる。自分の名前をつけるので、結構厳しい。名前勝負になる。だけど、良い意味でしのぎを削って、一千万円プレイヤーが続々と出始めている。ただ、野菜の作り方は変えなければならない。今までは同じ規格のものをドカンと作れば良かったのだが、そうではなく、色んな種類をちょっとずつ毎日収穫できるように作る。こういう少量多品種の人の収入が増えている。でも、UIターンの人が一袋だけ販売するというのも可能。(キヌヤは地産地消率を)毎年1%カッチリ取り戻している。(地元仕入れ額が)16億円。できなくはないし、人を幸せにする野菜。消費者もそろそろ、1%ずつで良いから地元のものを買って(地元を)育てよう。それをやらない限り、身ぐるみ剥がされる。今はほとんど外から買っている。それは幸せな暮らしと思わない。「このおいしい野菜、あそこの渡辺さんが作ったんよ」そういう地元の食卓を作りたい。

合わせ技の工夫

少量多品種の流通は、新しい合わせ技の工夫があれば良い。野菜だけドッカーンではなく、例えば、自慢の野菜を持って、売って、儲けて、買って帰る。こういうやり方が少量の流通でいける。いろんな合わせ技がある。中国新聞は、島根県吉田町で四年前までは新聞を配達して空便で帰るだけだったが、今は、おいしい有機野菜を積んで帰る。これだけで、1/2になる。こういうことを社会全体でやるかやらないか。そういった繋がりある、新しい社会の仕組みを作れば良い。林業の方も機械にお金をかけるばかりではなく、お互いに小さな機械を共有しながらやる。季刊地域 冬号に載っていたが、薪ストーブも自前で作る。最近は、ロケットストーブが広島を中心に広がっているが、溶接技術があればできる。こういったものが実入りが大きくなる。

イタリアの山村が元気

イタリアの山村が元気だというので、五年前に行ってみたら、本当に元気だった。500人、1000人の村でも合併せずに元気。何でかと言うと、徹底的に日頃の衣食住を自前でやっている。そこの違い。観光もすごい増える。村から村へ行ったら、全部違う。パスタもチーズも窓枠も料理も。しかも、観光客が払ったお金が外に出て行かない。守りと攻め両方。何が言いたいかというと、今まではお金をつぎ込むばっかり、規模の経済、とにかくお金を引っ張ってこようとする。それを否定するわけではないが、そろそろ同時に穴を塞ごう。穴の開いているバケツで水を汲んだら、いくらやっても漏れる。そこに気づかなければならない。それは各地元でやろうと思えばできること。

関連リンク:

田園回帰の過去・現在・未来: 移住者と創る新しい農山村

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はじまった田園回帰: 現場からの報告 (農文協ブックレット)

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*1:5歳ずつに分けた人口のグラフ。55歳ぐらいまで400-600人程度で、ほぼ平坦。その後、65-69を山にしてなだらかに減少していく